「ファビオ」としてエンターテイメントを提供する
ミケーレのスタッフには全員イタリア名がつけられる。本多社長もミケーレ恵比寿のドアを叩いた時に当時ミケーレ恵比寿を取り仕切っていた現バルニバービ常務取締役 安藤文豪(以下、安藤)に「ファビオ」と名付けられ、その日からファビオとしての人生が始まった。
ミケーレとはピッツァのディズニーランド。「ファビオ」という役で入り、場を盛り上げる。それぞれがイタリア名で呼び合い、そこは日本ではなくナポリになる。
ミケーレ恵比寿で本店とのすれ違いにより提供できる料理が少なくなってしまったときには恵比寿駅前を毎日掃除した。
ファビオ:どんどんお客様にご提案できる商品が少なくなり、最終的にはピッツァとアンティパスト数種類になってしまった。自分というキャラクターを売り込むしかないと感じ、仲間の協力も得ながら「ファン」をつくることに没頭しました。この経験で、商売の根底を学んだ気がします。
株式会社グローリーブス 代表取締役社長 本多威悠一人の人間の渦に引き寄せられる。「ファビオに会いに行こう」。そんなお客さんで溢れたミケーレ恵比寿は、売り上げをどんどん伸ばし、新天地開拓という新たなチャンスを掴んだ。
L'Antica Pizzeria da Michele 福岡福岡でバルニバービの真髄を
福岡でまず行ったことは人脈をつくること。安藤にも「友達を100人つくれ」と言われたそう。突撃でさまざまな会合に顔を出し、「ファビオ」を知ってもらうために動いた。しかし、思った以上に地場のネットワークは強くなかなか入りこめない。
ファビオ:当時、僕に足りなかったのは人間力。今も完璧ではないけれど、人を惹きつける、その圧倒的人間力が足りなかった。
それでも決して後ろを見なかったのは「九州を託された」という期待。そして集まってくれた仲間たちの輝ける舞台をちゃんとつくってあげたいという想いがあったからだ。福岡と懸命に向き合い、ミケーレ福岡が落ち着いた約1年後、福岡・博多に「GARB LEABS」(以下、リーブス)をオープンさせた。
GARB LEAVES「博多のオアシス」。博多駅から少し歩いた三丁目の道中に生い茂った緑が気持ちいい3階建のリーブスが顔を見せる。オープン当時、この道にはほとんど歩行者も車も通っていなかった。今では、日々お客様の笑い声が響きスタッフの笑顔が咲く。「道のある所に店を出すのではなく、店を出した後にお客様のくる道が出来る」。まさにバルニバービの真髄。
9月にオープンさせたNine Doorsのアルバイト求人には300人強の応募があったという。福岡は多額のアルバイト求人に投資しても1人も雇えないといわれているマーケットだ。しかも福岡だけでなく長崎や宮崎、佐賀など九州全土から「ここで働きたい」という声が集まった。28年前、株式会社バルニバービ代表取締役社長 佐藤裕久から始まった想いが仲間が増えるごとに広がり、九州福岡の地でもファビオを通して紡がれていく。
GLOW LEAVES(グローリーブス)に込めた想い
グローリーブスには個性豊かな仲間たちが揃っている。個を伸ばし「なりたい自分」になるために必要なことは何か、ファビオは一緒になって考え、寄り添う。仲間たちの心境の変化を決して見逃さない。
ファビオ:取り憑くレベルで相手のことを考えます(笑)相手が何を思っていて、どういうことを考えているから、僕がどういう提案をしてあげると、その子にとっていいのかっていうのを一人ひとり個別で考えるようにしています。
お店の成長には個々の成長が欠かせない。ミケーレ恵比寿の時から変わらずすべては「人」だということ。嬉しい瞬間は「その子が周りの仲間から信用されたとき」だと話す。
ファビオ:あいつがああやって成長したんだから、自分たちも頑張ろう!って、そういう渦をつくれた時が1番嬉しい。なりたい自分になるためだったり、やりたいことをやるためには必ず仲間の協力が必要です。自分の成長が仲間のためになるのであればその仲間は協力してくれます。
一人ひとりの成長がどう派生していくか。その渦をつくりたい。社名「グローリーブス」にもファビオの想いは込められている。
ファビオ:社名には二つの想いがあります。まず一つは、仲間たちの成長の場であること。一人ひとりが、葉や枝となり育ち続ける緑であり、そしてその緑が九州中に増えたらいい。もう一つは、九州のフラッグシップであるGARB LEABSからLEABSをとって。ここが僕らの起点なので、ここから皆が育っていってくれたらいいという想いです。
ファビオは実際に店舗に植えられている「緑」を大切にしている。スタッフにも絶対に植栽は枯らさないようにと厳しく伝えている。
ファビオ:僕が佐藤社長や中島常務、安藤常務から教わったことの一つに「緑が育つお店はいいお店だ」ということがあります。まさにその通りだと思う。植栽って生き物ですよね。生き物に水をあげられない人が飲食が得意なはずがない。お客様にお水を出すのと一緒です。いかに見ているか、気づけているか、心を寄せているか。植栽が生き生きしているお店には緑のパワーも満ちています。
取材を行なったのは10月下旬。秋も深まり、自然の木々たちは葉を落としている時期だ。しかし、グローリーブスの木々は枯れていない。ファビオという木から育った枝や葉であるスタッフも枯れることなく九州の地に美しいオアシスをつくり出す。「輝く葉」たちはこれからさらに成長し、木を強い日差しから守る大きな葉になるかもしれないし、木を離れ自分自身が木となるかもしれない。
ファビオ:一人ひとりを成長させられるかというのを経営者としての目線でどれだけ進めていけるかが重要だと考えています。
経営者としての未熟さを乗り越えて
4年の間に新天地で3店舗を運営するようになったファビオ。会社としても大きくなり、売り上げも伸びている。しかしながら、順風満帆だったわけではない。一度、代表の座を降りている。 ファビオ:ミケーレ恵比寿で店長を経験し、九州にきて代表を経経営者としての未熟さを乗り越えて
4年の間に新天地で3店舗を運営するようになったファビオ。会社としても大きくなり、売り上げも伸びている。しかしながら、順風満帆だったわけではない。一度、代表の座を降りている。
ファビオ:ミケーレ恵比寿で店長を経験し、九州にきて代表を経験させていただきました。その時は仲間たちを1番最前線でひっぱることはできても、最後尾でみんなを支えることができなった。「攻め」はできても寄り添い「守る」ことに無力だった。
一度東京の組織に戻り、代表含めスタッフたちを支える最後尾にまわり経営を学び直した。
ファビオ:見えてなかった部分が見えた。あの1年間は自分にとって貴重な時間でした。
経営者とマネージャーの違いを聞くと「全責任が自分にあるかどうか」だと話す。会社の利益、店舗の利益、仲間に対する分配、投資。いかなる状況であっても100%の成功は約束されていない、自分が失敗したらどうなるのか。そういったことも想定した上で、社長としてどこまで深いレベルで考えられるか。その深度で仕事ができるか。
ファビオ:僕は、目の前に起こりえていることは全部僕が招いたことだと考えています。そうでないと人のせいにする。僕はそれはやめました。
この深度にたどり着くまでが苦しかったとファビオは話す。苦しいこともあったし、楽しいこともあった、「苦楽しい」日々を経験して今の自分がいる。考え、行動して場数を増やしてきた。仲間たちの挑戦に対しても「否」を出すことは少ない。
ファビオ:やりたいことはできるだけやらせてあげたいし、得意なことを伸ばしてあげたい。けれど、失敗するであろうリスクヘッジはします。要は、僕がその失敗を拭えるかどうかということ。いいことも、悪いことも。もし仲間が取り返しがつかないほどの失敗をしたとしたら、それはリスクヘッジが甘かった僕の責任です。
仲間たちの成長だけでなく自分自身の成長もこれからずっと必要不可欠だと話す。
ファビオ:バルニバービには「なりたい自分になろう」という大切なフィロソフィーがあります。しかし、なりたい自分にしてもらうという意味ではないんです。なりたい自分になるために行動するのは自分です。自分で覚悟を決めて、挑戦し、経験し、戦い続けるんです。