九州の歴史を紐解く9つのドア
ナインドアーズはJR九州ホテルズ株式会社が手がける「THE BLOOSSOM HAKATA Premier(ザ ブラッサム 博多プレミア)」のメインレストランとしてオープンした。ワンランク上の上質な客室、"博多の粋"が詰め込まれたホテルでナインドアーズは博多にいながらも九州全土を感じられるようなレストランを目指す。
ファビオ:ナインドアーズは「9つのドアの地域に行けるお店」というのがコンセプトです。店名をつけるにあたっても、まずは九州の歴史から調べました。九州は、はるか昔に9つの国があって、それが語源になっている。その一つひとつの国にドアを置く。お客様にはそのドアを開けていただきたい。
扉の向こうに広がる、テロワール*との出会い。しかし、九州全土から旬の食材を集めるということは簡単なものではなかった。
*テロワール...土壌、気候、土地、作物にその土地特有の性格を与える生育環境
山中:九州の中で食材を揃えるというのはなかなか難しい。大分、福岡、長崎は近いということもあって食材を見つけやすかったですが、宮崎、鹿児島は距離的にも遠い。新しい農家さん、生産者さんとの関係づくり、新しいラインで仕入れていくという流れが1番大変でした。
パティシエの西山もまた九州に限定したテロワールに難しさを感じたという。
西山:その時期にとれる季節のフルーツをつかったデザートを出していますが、九州だけとなるとフルーツの採れる時期が短い。日本全国だったら「ぶどう」とか「もも」とか年間通して安定して採れますけど、九州だけとなるとかなり限定されるのが難しかったですね。
難しさもありながら、限定されたことで今までにない表現やアイデアが生まれる。インバウンドのお客様も多い中で九州全土の名前がほぼ網羅されたメニューにお客様の目も輝いていくという。シェフやパティシエにとってやりがいのある縛り、挑戦だ。
ファビオ:まず、第一段として九州の9つのドアを開いた。これから九州だけでなく新しいドアを開けてもいいと考えているんです。ナインドアーズのスタッフの子たちがやりたいことをしっかりと多角的にできるようなゆとりを持たせたい。
それぞれのこだわりから生まれる新しい可能性
THE BLOOSSOM HAKATA Premierには「博多」を感じようと多くのお客様が宿泊している。ホテル側のおもてなしも細かにちりばめられた"博多の粋"が魅力の一つだ。そんな中ナインドアーズでは「九州全土」を感じられる食材が集まっている。博多から始まる九州への「発見」はお客様の舌を刺激する。
山中:ディナーのコースも「おまかせ」でオーダーしてくださるお客様は多いです。シェフとしてはその日に入る食材も食べて欲しいなという気持があるので、とてもやりがいがあるオーダーです。お客様の期待に答えられるようにいいものを提供していきたい。
ディナータイムにはデザートのみを食べにきてくれるお客様もいる。ナインドアーズのソムリエ羽田野はデザートワインに詳しい。デザートとワインのマリアージュ。大人の贅沢な時間をつくりあげる。
羽田野:デザートワインはしっかり甘いワインではあるんです。でも、酸味がしっかりあるからすっきりと楽しむことができる。甘いものと甘いものでトゥーマッチになるイメージではなくてデザートの甘さを引き立ててくれるものなんです。
羽田野のデザートワインの知識は西山にとって刺激になっている。テロワールで仕入れてきたフルーツに合うお酒を提案してもらったことも。また、山中も西山に料理の感想を聞くこともある。チームワークは抜群だ。
山中:やっぱり一人の力で作り出すものより、皆の知恵と考えで作り出したほうがより一層いいものができる。そして、お客様に喜んでもらえた時に一人でつくったものより喜びが何倍にもなる。みんなで協力してつくりあげたほうが嬉しいですよね。
互いに力を合わせていいものをつくり出す。それぞれがしっかりとこだわりを持ったプロフェッショナルだからこそ支え合うことができる。
西山:自分が美味しいと思ったものだけを出したい。自分が食べたいなって思ったものじゃないとお客様が食べたいって思わないと思うんです。
羽田野:学ぶことをやめたら終わりだと思います。少しでも前に進めるように日々を積み重ねていきたい。そのためにワインもそうですし、サービスに関してもいろんな人からいいところを学んでいきたいと思っています。
仲間の絆と力
会社の特徴として20代が多いグローリーブス。ナインドアーズもまたまだまだ駆け出しの若い力が賢明に「なりたい自分」に向かって戦っている。
山中:正直できることのほうが少ないです。でも、そうではなくて、力なんてこれからつくものですから。だから、もっと心のあり方とか、そういった部分を一生懸命問いかけながら「諦めない心」「前に進むこと」という部分を丁寧に育てていきたい。そして、お客様に喜んでもらうっていう喜びを一緒に味わっていきたい。そうやって仲間の絆が深まり力もついていくと思うんです。
バルニバービ歴の長い山中も仲間に助けられ、自己中心的な考え方から「みんなと支え合う」意味を知り変わっていった。2016年の11月に起きた「博多駅前道路陥没事故」でも仲間に対する想いがいかに心に響くかを実感した。
山中:佐藤社長が営業もままならない状況を東京から心配して福岡まで駆けつけてくれたんです。すみません、ありがとうございますって言ったら「仲間やろ」って言ってくれた。佐藤社長の仲間に対する想い、あらためて実感して、自分もできることを精一杯やって、仲間を守っていきたいなと思いました。
山中の今の「なりたい自分」は仲間と一緒に泣いて、笑って、いろんなことを乗り越えて一緒に楽しむことだと話す。
山中:バルニバービに入って、色々変われて、今若い子たちが自分をささえてくれているという中で、もっともっと頑張らないとなって思います。
一人ひとりの前進する力が店を成長させる
ソムリエ羽田野も明確に「なりたい自分」を持っている。昔イタリアで出会った70歳くらいのサービスマン。歳をとっても白いジャケットを上品に着こなし格好よくサービスをしている姿に羽田野は強く憧れた。
羽田野:自分が70、80になってもサービスマンをしていたい。サービスマンとして仕事をする以上は死ぬまでやりたいですね。おじいちゃんになっても背筋を伸ばしてフロアにたちたい。それが最終的ななりたい自分です。そんな僕を見てまた誰かが格好いいなって一人でも思ってくれたらいい。そんな存在になりたいですね。後は、娘にパパ格好いいってずっと思ってもらえるようなパパでいたいです!
ナインドアーズの魅力の一つはやはり「人」だろう。個性溢れるスタッフが自分の目標へと進むその道に店の成長がある。最後にナインドアーズの1番の魅力をそれぞれに聞いた。
山中:薪の火ですよね。今はまだ、お客様が途切れてしまう時もあるので常に火が灯っているわけではないですが、1日中燃やし続けられるようにしたい。僕らの魂とともに燃やしていきたいなと思います。
西山:うーん、そうですね...。1番...。
山中:私のケーキ!って言っちゃいなよ!西山のつくるチーズケーキめちゃくちゃ美味しいんです。本当食べて欲しいです。もっとケーキ押したらええやん!
西山:うん、はい。チーズケーキです!
濃厚ながらさっぱりと味わえるチーズケーキは西山渾身のメニュー。店でも注文が多い一品だ。シェフの山中も絶賛している。
ファビオ:いやでも、本当、冗談ではなく、この形が1番の理想ですよ。僕の料理です。私のケーキが1番の魅力です。そう言えるお店が何よりも強い。
何か一つでも自信を持ってお客様に提供できる。この店でそれが1番だといえる。そんな仲間たちが揃っているナインドアーズはこれからさらに輝きを増していくだろう。最後に羽田野が魅力を伝える。
羽田野:知識はまだまだですが、たぶん福岡で1番素敵な笑顔のソムリエがいるってことだと思います!
得意なことが異なるメンバーが集まり、チーム力を発揮する。まだ成長段階のナインドアーズだが見えている先は明るい。
ファビオ:「Nine Doors」というコンセプトに対して皆で四苦八苦しながらこれからもいいものを提供していく。GARB LEAVSがそうであったように、ここも福岡にとって九州にとってなくてはならないお店になると思います。