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ピッツァがつなぐ、日本とイタリア ダ・ミケーレの原点と未来を語る|斎藤佑樹 × アレッサンドロ・コンドゥーロ

ピッツァがつなぐ、日本とイタリア ダ・ミケーレの原点と未来を語る|斎藤佑樹 × アレッサンドロ・コンドゥーロ

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北海道・北広島のFビレッジに誕生した「L’Antica Pizzeria da Michele 北海道」。ナポリで150年以上続く伝統を受け継ぐこのピッツェリアに、元プロ野球選手の斎藤佑樹さんが訪れました。迎えたのは、世界展開を率いるミケーレ・インザ・ワールド社CEO、アレサンドロ・コンドゥーロ氏。“食”という共通言語を通して、日本とイタリア、そして「伝統と未来」を語る対話が始まります。



プロフィール

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斎藤佑樹 1988年6月6日生まれ。群馬県太田市出身。
早稲田実業学校高等部3年時の2006年、エースとして夏の甲子園に出場し全国制覇。「ハンカチ王子」として大フィーバーを巻き起こした。早稲田大学入学後も輝かしい成績を残し、数々の栄冠を獲得。アマチュア球界No.1右腕として2010年ドラフト1位で北海道日本ハムファイターズに入団。ルーキーイヤーから6勝をマークし、プロ2年目の2012年には開幕投手も務めた。2017年からは背番号をアマチュア時代に慣れ親しんだ「1」に変更。しかし度重なるケガに悩まされ登板数も伸びず、2021年10月に引退を発表。株式会社斎藤佑樹を発表し、現在『野球未来づくり』をビジョンに掲げて多岐に渡り活動している。

◾️野球場づくりYouTubeチャンネル 『斎藤佑樹ch』
https://www.youtube.com/@Yuki_Saito-Ch
◾️斎藤佑樹公式Instagram
https://www.instagram.com/yuki____saito/


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Alessandro Condurro(アレッサンドロ・コンドゥーロ)
ミケーレ・イン・ザ・ワールド社 CEO
ナポリの老舗「アンティカ ピッツェリア ダ・ミケーレ」創業者、ミケーレ・コンドゥーロの曾孫にあたるコンデュロ家の5代目。
若い頃は家業であるピッツェリアを離れ、経済学の研究と会計士としてのキャリアに専念。2012年、自身のルーツと向き合い「Michele in the World」を立ち上げる。
以降、「L'Antica Pizzeria da Michele - 1870 -」のブランドイメージと知的財産権を管理し、世界展開の舵を取る。
現在はナポリの本店(フォルチェッラ地区)を除き、ナポリ郊外をはじめ世界各地に70店舗以上を展開。
伝統の味と哲学を守りながら、ピッツァを通じた文化の継承と発信を担っている。

ミケーレのピッツァは"文化"である――火と継ぐ、ナポリの記憶

―イタリア・ナポリで創業155年を迎える「アンティーカ・ピッツェリア・ダ・ミケーレ」は、世界中で愛され続けている伝統的なナポリピッツァの名店です。 創業当初から継承されてきた製法を守り続け、ナポリピッツァの真髄であるマルゲリータとマリナーラの2種類を一切アレンジせずに提供しています。
行列を避けるイタリア人さえも並んででも食べたくなる究極のピッツァとして、現在イタリアを中心に73店舗を展開しています。

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アレッサンドロ: 私たちのピッツァは、トマト、小麦粉、チーズ、オリーブオイルというシンプルな素材でつくられています。すべてナポリから直送し、本店と同じ窯を使って一枚ずつ焼き上げます。 職人の"感覚"による焼きは、気温や湿度によっても左右される。だからこそ、レシピを再現するだけでなく、"文化"を伝えるという意識が大切なんです。
ナポリでは、ピッツァは家族が集まる食卓の中心にあるもの。そこには、会話や笑い声、日常の景色が宿っている。ピッツァは単なる料理ではなく、文化そのものなんです。

斎藤: 素材や作り方が同じでも、土地や風土が違えば、発酵や焼き加減も変わる。 だからこそ、"伝統を守る"というのは単なる継承ではなく、環境に応じて再解釈し、再構築することが大切だと感じますね。
野球でも同じで、型をただ真似するだけではなく、自分に合わせて工夫していくことで、ようやく"受け継ぐ"ことができる。
そこにこそ強さがあるんですよね。

アレッサンドロ:まったくその通りですね。 ナポリと違い、日本には四季があり、気温も湿度も大きく変わります。発酵の状態は同じ素材を使っても全然違う。
だからこそ、私たちは"職人"にこだわります。
その土地に合わせて焼き上げる感覚、これを伝えることがとても大事なんです。

ひらかれた場所に、笑顔が集まる

―強さが宿るというお話がでました。斎藤さんご自身は現在経営者として活動されていますが、現役時代から感じている"守るべきもの"とは何でしょうか?

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斎藤:現役時代から思っていたのですが、スポーツって人を元気にする力がありますよね。そして、食にも同じ力があると思います。
「サニーテラス」の開業もそうした考えから始まりました。野球に興味がない方でも楽しめるような、歩いていてワクワクする場所にしたい。海外で見た、スタジアムへ向かう途中にみんなが飲んだり食べたりして盛り上がっている光景。
ああいう雰囲気を日本でも実現できたらと思っています。

Fビレッジのこの立地も最高ですよね。球場のすぐそばで、観戦前や休日にふらっと立ち寄れる場所。地域の人々が集まるハブになっていくといいなと思います。


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L'Antica Pizzeria da Michele 北海道オープン日の様子。暑い中、多くの方がお越しくださいました。


アレッサンドロ:本当に素敵なアイデア!こうして開放感ある場所で、笑顔の連鎖が生まれる空気を感じています。今日から、私もファイターズのファンになりましたよ!

情熱と技が交差する―ナポリの窯と北海道の厨房で

―ピッツァを通じてナポリの文化に触れて、どんな印象を持たれましたか?

斎藤:実は、イタリア人の情熱的なコミュニケーションにずっと憧れていて。生まれ変わったらイタリア人になりたいくらい(笑)。ナポリにはまだ行ったことがないのですが、必ず行ってみたいと思っています。

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アレッサンドロ:それはぜひ。ナポリは特別な場所ですよ。伝統的なピッツァを、現地で体験してほしいです。
わたしは逆に日本の食文化にもすごく共感しています。和食はもちろん、ラーメンや寿司など、どれも素材を活かす文化が根づいている。イタリアも同じです。だから日本の方とは、味覚の感性が通じ合う気がします。

―そのピッツァを焼き上げる大きな窯がダ・ミケーレの特徴でもありますね。

アレッサンドロ:ナポリピッツァは、高温の窯で約1分間、一気に焼き上げます。 北海道店にも本国から直送した窯を導入し、一度に4枚焼ける設計になっています。

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斎藤:厨房の熱気がすごくて驚きました(笑)。 でも、そのなかで黙々とピッツァを焼いている職人さんたちが本当にかっこよかった。
一枚一枚に向き合う姿勢は、まるで勝負の場にいるようでした。
音や香ばしい匂いも、すべてが演出のように感じられて----五感が刺激されましたね。

―では早速ご賞味を。定番の「マルゲリータ」と、北海道店限定の「サルサ・パタティーネのクアトロフォルマッジ」。 北海道産のじゃがいもをベースに、4種類のチーズを贅沢に使った特別な一皿です。

アレッサンドロ:ちょっと待って! ナポリでは、ピッツァはカットして折りたたんで食べるのが定番なんです。これが完璧なスタイル。チアーズ!

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斎藤:うまっ! 香りがまったく違いますね。これまで食べてきたピザとは別物。 香ばしさとしっとり感のバランス、そしてチーズのミルキーなコク。
それぞれの素材が主張しながらも、ちゃんと調和していて、どこか"余白"すらある。これはもう料理というより、"作品"ですね。

──北海道店限定の「サルサ・パタティーネのクアトロフォルマッジ」はいかがでしたか。

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斎藤:この限定ピッツァ、ほんとうにすごかったです。 ブルーチーズの香りが豊かで、北海道産"じゃがいも"の甘みと合わさると、まろやかさが一気に広がっていく。
噛むたびに味が変わるような深みがあって......正直、これで"ピザ観"が変わりました。

変えずに伝える――"手から手へ"受け継ぐ文化

―限定ピッツァは立地や季節によってもありますが、レシピは変わらず。なぜここまで"変えない"ことにこだわるのでしょうか?

アレッサンドロ:変えるのは簡単。でも、変えずに続けるには、努力と愛が必要です。 家族と囲む食卓の記憶、ナポリの風景、笑い声。そうしたものを、ピッツァに閉じ込めてきました。
伝統を守ることは、過去にすがるのではなく、未来への約束なんです。


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「ダ・ミケーレ」トップピッツァイオーロのアントニオ・ファルコ氏。開業前にクオリティチェックで来日した。


北海道の立ち上げにもきている、ピッツァイオーロのアレッシオにはマエストロの称号を授けました。日本・恵比寿店は、ナポリ本店が初めて海外に展開した店舗。これからも職人の育成と文化の継承を、世界中のパートナーとともに続けていきたいと思います。


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(左から)ミケーレ・イン・ザ・ワールド社 CEO Alessandro Condurro /ダ・ミケーレ マエストロピッツァイオーロ Alessio / ダ・ミケーレ プリモピッツァイオーロ Antonio Falco


斎藤:そういう"本気"の姿勢に感動します。 一枚のピッツァに込められた職人さんの情熱や誇りが、自然と伝わってくるんですよね。食べる側も、丁寧に味わいたくなる。
ひたむきさって、スポーツにも通じると思います。
伝統に真摯に向き合いながら、新しい挑戦もしていく。その姿勢が本当に素晴らしいと思いました。
この場所の魅力を、もっとたくさんの人に知っていただきたいです。

アレッサンドロ:ありがとうございます。ピッツァは"手で食べるもの"。 だからこそ、人の手でつくり、人に手渡す。この"手から手へ"の感覚こそが、文化の本質だと思います。
北海道という新しい土地で、また新しい物語が始まることに、私もわくわくしています。
ピッツァがつなぐのは、国や世代ではなく、「人の手」そのものなのかもしれませんね。

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編集後記:一枚のピッツァがつなぐもの

火と手と、土地の記憶。
ナポリから遠く離れた北海道で交わされたこの対話には、料理人と表現者、それぞれの立場を越えて響き合う「ひたむきさ」がありました。
ミケーレが守り続けてきた"変えない"という選択。斎藤さんが語った"自分の形にあわせて受け継ぐ"という姿勢。
そのどちらも、文化を「生きたもの」として灯し続ける力のように感じられます。
人の手から手へと受け継がれるレシピ。
その一皿に込められた想いは、国境や世代を超えて、きっとこれからも誰かの記憶をやさしくあたためていくのかもしれません。

WRITER 福地 恵理

合同会社yuiya代表。広報・情報学修士。
バルニバービでIR・広報を担当し、旗艦店「MIRROR」や淡路島「Frogs FARM」など多様なプロジェクトを経て独立。現在は広報やコミュニケーション分野を中心に、企画設計やコンサルティングを行っている。