役に立つ美しいものであり、その「モノゴト」としてのデザインを生み出す計画と実行そのものがデザインであると定義しました。
では「良いデザイン」とはなんでしょうか?
デザインが役に立つこと、美しいことが「ありき」だとすれば、
「より役に立つ、より美しいもの」が「良いデザイン」になると思います。
しかし、それはどのように判断できるのでしょうか? 照らし合わせる対象がないとわかりません。
それが目的です。「役に立っているかどうか?」は解決すべき課題がなければ判断できません。
「美しいかどうか」についてはどうでしょうか? 美しさは、それ自体に「価値がある」ということですが、内容は判断する人の価値観によって異なります。ここで共有したいのは、目的を実現するために必要な「美しさ」です。後ほど説明します。
飲食店で必要となる「グラフィックデザイン」で考えてみます。
ちなみに「グラフィックデザイン(graphic design)」とは、主に平面での情報や価値の伝達を目的とした表現で「視覚伝達」ともいわれるビジュアルデザインの一種です。飲食店であれば、メニューやチラシといった販促物として、印刷物やWEBで日常的に目にするデザインです。
目的と課題の違い
デザインには目的と課題が必要だと書きました。違いを整理します。
「目的」は、最終的に到達すべきこと。(デザインで実現することです)
「課題」は、解決することを求められている問題。(デザインが果たす仕事です)
そして「デザイン」は、上記を実現させるための「手段」です。
飲食店のデザインが最終的に到達すべき目的を「お店のファンを増やして利益を上げること」と設定するなら、お店のメニューにも自ずと次のような課題が見えてくると思います。
・商品やサービスの情報や得られるメリットを正しく伝えること。
・すなわち「機能的価値」や「情緒的価値」を伝えること。
・伝えることで、他店との差別化を明確にすること。
・それにより、自店の価値やブランド力向上につなげること。
「機能的価値」は、その商品やサービスの機能や性質によりもたらされる、利便性や利益です。
食品や料理の機能であれば、
・生きる上で必要な「栄養を摂取できること」
※参考図書:「理想の健康食 長寿をあなたに!」鈴木建夫 保健同人社
・好む食感や味を食せることで「嗜好性を満たせること」
・「○○は××に効果がある」のような、食べることでストレスを和らげたり、免疫力を向上させたり、
ホルモンの分泌を助けたりといった人の「生体調節機能」に作用して、薬とは異なる「癒しが得られること」
といった便益があります。
バルニバービがミッションに掲げている「美味しいものをより楽しく、より健康に、よく安く」には、まさしく「食の機能的価値をお客様に存分に届けますよ」というメッセージが含まれています。
「機能的価値」をより正しく伝わるようにするのが「機能のデザイン」で、これは「理解の促進」となります。
しかしながら、人を行動へと向かわせるには、頭での「理解」だけでは不十分です。
メニューであれば、理解の促進に加えて「これは美味しいに違いない!食べたい!」「可愛い!綺麗!」など、見る人がわくわくするような好ましい感情を呼び起こして、共感へと導くような「情緒のデザイン」が盛り込まれていなければ、実際に食べてもらう行動を強固なものにすることはできません。これは「共感の促進」です。
「機能的価値」の存在を正しく伝えながら、それで得られる好ましい感情「情緒的価値」を、お客様がより明確にイメージできるように、メニューの中でもネーミングや金額、商品説明や写真、それぞれで「機能+情緒」が伝わるようになっているなら、お客様の心をより大きく動かせるのではないでしょうか?
この「人の心を『より大きく』動かす」ために、「美しさ」が必要なのです。
伝わるデザインに必要な美しさ
「美しさ」については、最初に書いたように判断する人の価値観によって異なってくるので、ここでは課題を解決するために必要なデザイン上の「美しさ」について考えてみます。
デザインに必要な「美しさ」とは、「抜けが良いこと」に置き換えられると思います。
「抜けが良い」の意味には「音や光をよく通すさま」「音響や画面がすっきりしているさま」とあります。「音や光」を「機能的価値や情緒的価値」に置き換えたら、「抜けがよいデザイン」とは、伝えたい内容が歪められたり、余計なものに邪魔されることがない形で表現されている状態だと言えます。デザインをみたときに何か違和感を覚えたり、伝えたいことが明確になっていないと感じるのであれば、それは「抜けが良くない=美しくない」のです。
メニュー・フライヤー・ポスターなどの印刷物では、情報を掲載できるスペースは限られています。「あれも伝えたい、これも伝えたい」とそれぞれの情報がスペースを取り合うことによって「一番伝えたいこと」が阻害されてしまっているようでは「伝わるデザイン(すなわち良いデザイン)」にはなりえません。
良いデザインかどうかは誰が決めるのか?
さて、「良いデザイン」がどのようなものか見えてきたところで、とある疑問が生まれます。
そのデザインが「役に立ったのかどうか?」は、その「結果」と照らし合わさないと判断ができません。だとしたら、デザイナーがデザインを作り上げた時点では、それが「本当に良いデザインかどうか?」はわかりませんよね?
デザインを作り出すのは一人の(あるいは複数からなる)デザイナーです。ここでデザイナー自身が最初にそのデザインの良し悪しを判断することになりますが、ここでは、それは「仮説」に過ぎません。次に判断するのは、そのデザインを依頼した人です。ここで意図したデザインとなっているかどうかの最初の「検証」がなされます。この段階で共感を起こせなければ、依頼者にとっては「良いデザインとは思えない」という結果になります。
難しいのは、中には、依頼者が「良いデザインだ!」と判断しても、本来のターゲット(お客様)に対して充分な結果を残せなければ、そのデザインは失敗と判断されてしまいます。逆にデザイン提案の時点で依頼者の共感を得られなかったとしても、結果的には成果を出したデザインというケースもあります。
ですが、こうは考えられないでしょうか?
作り手が課題を解決できると思われるデザインを生み出し、依頼者の共感を呼ぶことができれば「良いデザイン」といえるのではないでしょうか?最終的により多くの人を動かすことができるのが「より良いデザイン」だとしても、目的を共有しているはずの目の前の人を共感させることができなくては、デザイナーの仕事を果たせていないと思うのです。
良いデザインと何か? 「人々の理解と共感を生み、行動を形づくることができるデザイン」
今回はデザインの良し悪しを判断するための「設定」となるものについて考えてみました。そして具体的に「理解と共感を生むデザイン」を作り上げるための道具となるのは「デザインスキル」と「デザインセンス」です。その中でも「デザイナーにはセンスが不可欠」とまで言われる「センス」とは、一体なんなのでしょうか?
次回は「センスってなんだ?」について考えてみたいと思います。
それではまた!
BALNIBARBI DESIGN WORKS
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