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Vol.4 センスってなんだ?[ 後編 ]

Vol.4 センスってなんだ?[ 後編 ]

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Vol.4 センスってなんだ?前編に引き続き[ 後編 ]

センスを磨くとは?

茶道や武道、日本の芸時には、「守破離(しゅはり)」という考え方があります。茶道の大家である千利休の言葉で「規矩作法 守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな」を引用したもので、師弟関係のあり方の一つとされています。(Wikipediaより)

修行が師匠の教えである「型」を「守る」ところから始まり、次第に自分で分析して改善、改良できるようになることで型を「破り」、最終的には師匠の型から「離れて」、新しいオリジナルな「型」を作り出すことを目指す修行過程を「守破離」で表現しています。ちなみに「型があるから型破り、型が無ければ形無し」は十八代目中村勘三郎の座右の銘です。洒落てますね!

なぜ「守破離」を持ち出したかというと、まさに「センス」を磨く過程に当てはまるからです。「センスを磨いていく」には、次の過程が必要になります。

[ 守 ]
始まりは知識から。参考となるセンスの良い人や資料から情報を収集して「判断基準」を作り上げていく段階です。自分に必要なフォロー先を見つけることから判断は始まっています。知識とは情報をもとにした理解です。「良し悪しがかわからない」という情報も「何故それがよいのか(悪いのか)」の理由を知って理解することで、他で使える知識となります。

[ 破 ]
「判断基準」を基にしたアウトプットで経験を重ねます。成功と失敗、分析と改善を繰り返して、自己の「判断基準」と「最適化する能力」を向上させていく段階。いわゆる「センスを磨く」過程です。なぜ「磨く」と表現されるのでしょうか?「研く」とも書きます。「磨く」は、玉などをより光らせることで「研く」は、刃をより鋭くさせることの意味で、なんとなく「磨く」は広めるような感じで、「研く」は深くしていくような感じがします。両方で「研磨する」とも表現しますが、総じて「あるものを削って、表面を滑らかにすること」を意味しています。削るということは、表面を痛めることでもあるので、センスは「痛みの先にあるもの」です。「センスを磨く」過程には、最初から「失敗」が含まれているのです。このセンスを磨いている段階でも、周りから「センスがいい」という評価を得られます。

[ 離 ] 
センスを磨き切った先に辿り着くのは、その人自体の存在が新たな「センス(判断基準)」として、多くの人たちからフォローされる側になること。これは数値化できないものに対して、自らの力で価値を与えられる存在になることを意味しています。様々なケースがあるので、全ての「センス」がここまでのレベルになることを必要としないかもしれませんが、最終的には身につけているセンス自体に価値が生まれることが目標の一つになるのだと思います。

「艱難汝を玉にす」という言葉があります。「人は苦労・困難を経験して、それを乗り越えることによって人格が磨かれ、立派な人物になる」というものです。人生を「玉を磨くこと」になぞらえて、地面から掘り出された時は何でもない祖玉だったのが、磨かれることで初めて美しい玉になることを伝えています。

表面がでこぼこした祖玉とツルツルの玉を比べたら、その差は一目瞭然ですが、ツルツルの玉をさらに極限まで研ぎ澄ませていくと、その差は限りなく小さなものになっていきます。一定のレベルを越えた「差の違い」は、もはや「わからない」かもしれません。「差の違い」が小さなものになっていうのに比例して、その差を生み出す作業、労力は格段に上がっていきます。

物事の比較を研ぎ澄ませていき、限りなく小さな差を見極めるような「センス」は、日常生活においては必要がないかもしれません。けれど、高みを目指す姿勢は学びを深くしますし、「センス」があることで映画や音楽、料理や芸術など、膨大な時間とエネルギーを込めて作られたものをより深く理解できるようになったり、より楽しむことができる助けになります。これもセンスを磨くことで得られるメリットの一つです。

最短でセンスをよくするには?

「センスは才能ではない、後から身につけられる!」とは言われても、結局「センスを磨く」過程は時間がかかるので「やっぱり無理」と思ってしまったかもしれません。つまるところ、仕事などで必要となるセンスは「できるだけ効率的に身に付けたい!」というのが本音ですよね。そこで出来るだけ効率的にセンスアップすためのポイントをあげてみます。

[インプットに関して]

知識は、その対象の「流行・定番・古典」から満遍なく得るのが応用範囲が広いのですが、短縮するなら「定番」をメインにインプットしましょう。「定番」がもっとも安定していますし、長続きもするので知識としての使用価値が高いと思います。ファッションも「定番ファッション」が一番のボリュームゾーンです。同じ色、同じ素材のコーディネートを何着も所持して着回すスタイルの「ノームコア」は、スティーブ・ジョブスやマーク・ザッカーバーグで有名ですが、自分に合う定番のファッションスタイルで固定してしまい、最適化する行為自体を制限しています。ちなみに彼らが「ノームコア」を取り入れている理由は「どんな服を着るかとかいう小さい決断でもエネルギーを消費するため」。失敗しないために選択自体をしないという選択です。

また、デザイナーではない人が社内資料や企画書をつくる際に「デザインセンスのよさ」を求められるなら、そこで使用する書体にはこだわってください。こだわるのは書体だけでよいです。余計な線やエフェクトはいりません。そして、適切な文字の大きさ、見出しと本文で文字の大きさのメリハリをつけること。定番の美しい書体と文字の大きさなのメリハリのバランス。その知識だけをインプットしてください。文字組みこそがデザインの定番だからです。要素を絞り込むことは選択ミスが防げることにもつながります。それだけで「デザインセンスのよいと思われる」企画書や資料は作れてしまいます。

[アウトプットに関して]

最適化の経験値を上げるためにはアウトプットが必要ですが、アウトプットができない場合にどうすればよいか? オススメは、他人がアウトプットしたものを分析することです。例えば電車で通勤しているなら、中刷り広告を目にするかと思います。中刷り広告はクオリティが高いものがあれば、伝えたいことがまったく伝わってこないものなど様々です。それらを見にしたときに漠然と感じたことを流してしまわないで、自分が「なぜそう感じたのか?」を分析して、そこに至った経緯をなぞることで、そのアウトプットに込められている意図を理解することができます。文章や絵であれば、そのまま書き写したりトレースすることで、作り手の意図が体感できるので疑似的な経験を積むことができます。これは料理などにも当てはまると思います。

料理を「美味しい!」と食べているのは、それは単に味わって、楽しんでいる状態です。目的が「お腹を満たすこと」や「楽しむこと」であれば、もちろんそれでよいのですが料理人であれば「どうして美味しいと思ったのか?」と分析して学ぶことでしょう。

デザイナーも早く上達する方法があるとしたら、インプットの際に「なぜそのデザインを良い(悪い)と思うのか?」を分析して、仕入れた知識を使ったアウトプットを繰り返すしかありません。インプットが単に「情報を消費すること」だけで完結していてアウトプットを伴っていないなら、それはデザイナーではありません。それはただの「デザイン好き」です。

つまるところ、違和感に対して「なぜ?どうして?」と、「分析」して「改善策」を考える癖を習慣づけることがセンスアップに繋がります。実際、何事においても「センスレベルが高い」人は、無意識レベルで常にそれをやっているのです。
結論としては「客観視」を習慣づけることが「センス」をよくすることの近道です。

センスとは何か?
「知識と経験による判断基準で、最適な状態にできる能力」

そして、その能力を効率良く身につけるのも、これまた「センス」が必要です。

デザインの話としては、結局は最後の「客観視の大切さ」を伝えたかったのですが、「センス」を絡めたために、かなりの文字数を費やしてしまいました。

次はグラフィックデザインの話に戻して、読むのに疲れないビジュアル重視にしたいなと考えています。
というわけで、次回は番外編をお届けします。

それではまた!

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https://design-work.balnibarbi.com

WRITER 石合裕樹

バルニバービ企画本部にてグラフィックデザイン&撮影担当。料理人の父の影響を受けずにグラフィックデザイナーになるも、やっぱり食に関わることに。デザイナーだけでなく、料理人やお店のスタッフ、あらゆる人がデザインの力を日々の仕事に活用できるように伝えていきます。